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空はどこから

地味に日記を書いていきます

柴又のお師匠さん~東京市・叙景

この夏、私が訪ね歩いた盆踊り
それは「東京市(~1943年)」発見の始まりだった
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盆踊りは地元の祭典、名士のご挨拶もある中で
「東京でも盆踊りを開催している自治体はずいぶん減りました。西の方ではほとんどありません
ここ葛飾区で続いているのは皆さまのご尽力の賜物云々……」
実際、どこの盆踊りでも、踊っているのは揃いの浴衣をはじめとする年長者ばかり
子ども達は?
屋台に釣られて会場には来るが踊りの輪には加わらない
アナウンスでお菓子をエサに誘っても、ドラえもん音頭を流してみても、かき氷を持ってタムロするだけだ
……盆踊りはやがて滅びる

そんな中、私がもっとも愛した盆踊りは――
葛飾柴又、帝釈天での盆踊り大会

この会場では演目は4つのみ。すべて地元ゆかりの曲だ
東京音頭、大東京音頭、葛飾音頭、そして『寅さん音頭』
あの柴又帝釈天で寅さんを踊るんだぜ!
泣けてくるねえ……

この会場の素晴らしさは、踊り手の年齢層の厚さ
カラフルな甚平を着た小さな子どもから小・中・高生、彼氏(?)と二こと三こと会話して踊りに加わるお姉さん
若いお母さんは赤ちゃんを抱っこしたまま、身体を揺すって踊っている
中・高年の夫婦者が並んで黙々と踊っている
山村紅葉さん(似のおばさん)が陽気にシナを作っている
ハッピに白足袋のおじいさんがもはや踊りとも言えない足取りでうろうろ。日の丸の鉢巻きはいいとして、そこに書いてある文字……「神風」ってナンだよ!?

盆踊りは、まず曲を流しての太鼓の練習から始まる
遠巻きに眺める人々
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やがて粋なお姐さんが先陣を切る
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そして輪が繋がり
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二重、三重となっていく
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踊りたくて堪らないファイミル夫妻、この輪が始まるのをうずうずしながら待っている

まだ踊りも覚えられない小さな子どもが輪の中をちょろちょろ駆け回る
十代の娘さんが気配を感じて振り返り、子どもを見下ろして「あら?」と微笑む
スポーツ少年団の世話役なのだろう。ポニーテールにジーンズのお姉さんは、まとわりつく男の子達を追い払い「ええいあっちいけ!あたしゃ踊りたいんだ!」と一心不乱に踊っている

笑ったのはこれ
飛び入り参加だろう、たどたどしい踊りのおばさんの後ろに、小さな子が3人くっついて踊っている
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それはまるで、よちよち歩くアヒルの親子のようであったw
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柴又・帝釈天の盆踊りには、「東京市」の時代から続く懐かしい情緒がある

かつての娘さんが今は粋なお姐さんになって、娘の浴衣の乱れを直し、前後に並んで踊っている

この土地の人々には、元来、日本舞踊の素養があるのだろう
浴衣に着こなし感があって所作が美しい
そして踊りはしなやかで指先まで美しい

その中で、私が「柴又のお師匠さん」と定めたヒトは――
踊りの体幹がしっかりしていて姿勢が良く、肩で踊る
無闇にアヤを付けず、むしろ投げやりに手足を揮う

これは、私が勝手に「江戸芸」の本質と考えている魅力であり、二三吉姐さんの端唄を聴いて思ったことだ
二三吉姐さんの唄い方は一見ぶっきらぼうで蓮っ葉に聴こえる。そこには凛として媚びない心意気がある
柴又のお師匠さんの踊りもまた、媚びがなく伸びやかだ

そして、お師匠さんの踊りには日本古来の身のこなしがある
右手・左足、左手・右足、と上半身・下半身を捻って歩くのは西洋式の運動――日本人は古来、右手足、左手足を揃えて前進する。その名残が相撲取りの突っ張りの所作である
因みに、忍者も右手足・左手足を同時に出す走り方をしていたらしい――これを「ナンバ走り」と言う

だから盆踊りにもそういう振り付け――右手と右足を同時に出す――が多い
お師匠さんは肩を使って腕を前に伸ばすから、この所作が大きくてダイナミックに見える

その踊りに見とれていると「変に思われるよ」と妻に注意された――
これがアイドルだったら、面と向かっていくらでも褒められるのに……今思うと、芸能人って「プロの褒められ屋」だったんだなあ

なお、私の柴又のお師匠さんは、歳の頃なら13~4
少しクセ毛の髪をひっつめにした、黒眼勝ちで眉の凛々しい娘さんである

この柴又の盆踊りに触れていると、荷風さんの愛した「東京市」の風俗とはこれなのか――と思えてくる
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世代を越えて繋がっていく市井の人々の営み
ここで踊っている娘さん達は、やがてお姉さんのように結婚し、お母さんのようなお母さんになり、お祖母さんのようなお祖母さんになる
そして、慎ましい幸せの中、今年も帝釈天へ盆踊りにやってくる――
親兄弟と一緒に、友達と一緒に、恋人と一緒に、夫と赤ちゃんを連れて、そして大きくなった子どもと一緒に
そして次の子ども達も、踊りの輪の中を駆け回ることだろう
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そうして、東京市の情緒は引き継がれていく――

目に留まった人には、この変な夫婦、最近柴又に越してきた新参者かと思っただろう
実は、江戸川を渡って隣県から通っていた
関東に住んで8年――この夏、私はついに、理想の「東京」に出会えたのである